【シーン1:終わらない貧困ループ】
活気あふれる王都のメインストリート
なのだが・・・路地裏に座り込む二人の若者の周りだけ、どんよりとした空気が漂っている。
リヒトは刃こぼれだらけの安い鉄の剣を磨いており、隣でギャンが大きなため息をついている。

あーあ、やってらんねえ! 毎日毎日スライムの粘液まみれになって働いてるのに、なんで俺たちの財布はいつも空っぽなんだ?

仕方ないだろ。稼いでも、家賃と食費、それにこのボロボロの武器の修理代ですぐに消えちまう。……でも、いつか絶対にお金を貯めて、あのショーウィンドウにある『鋼の剣』を買うんだ。

ケッ、そんなチマチマ貯めたって何年かかるか分かりゃしねえよ。やっぱり一攫千金、地下カジノ『ハイ・ローラー』で一発当てるしか……
その時、大通りから悲鳴が上がる。
柄の悪いゴロツキ数人が、豪奢なローブを深く被った女性を路地裏に追い詰めていた。
ゴロツキ 「おい姉ちゃん、随分と高そうな指輪してんじゃねえか。ちょっと俺たちに『投資』してくれよ!」

……っ! おいギャン、行くぞ!

おいバカ、金にもならない厄介事に首突っ込むな!
ギャンの制止を振り切り、リヒトは刃こぼれした剣を構えて飛び出す。
見事な身のこなし(日々の真面目な労働で培った筋力)でゴロツキたちの武器を弾き飛ばし、追い払うことに成功する。
【シーン2:黄金の法則と究極の選択】
助けられた女性が、ゆっくりとローブのフードを下ろす。
そこに現れたのは、息を呑むほど美しく、知的な瞳をした貴婦人(ソフィア)だった。

見事な剣さばきでした。助けていただき、感謝いたします。
遅れてやってきたギャンが、ソフィアの身なり(高級な絹の服や宝石)を見て目を輝かせる。

へへっ、お嬢様! 助けてやったんですから、当然『お礼』は弾んでくれますよね? 1万ゴールド……いや、2万ゴールドでどうすか!

ギャン、やめろ!……お嬢様、お怪我がなくて何よりです。
お金なんて結構ですから、お気をつけて。
リヒトが立ち去ろうとしたその背中に、ソフィアが声をかける。

お待ちください。……あなたのその剣、ひどく傷んでいますね。毎日休まず働いている証拠です。せめてその剣を新調できるくらいのお礼はさせて下さい。
思わぬ申し出にリヒトは足を止める。

そんな
リヒトはふと、ソフィアの真っ直ぐな瞳を見つめ返す。

お嬢様。もし本当にお礼をしていただけるなら……お金はいりません。俺に、『貧乏から抜け出して、お金持ちになる方法』を教えてくれませんか!?
ギャンが「はぁ!?」と呆れる中、ソフィアはふっと優しく微笑む。

……良い目ですね。目先のはした金ではなく、一生使える『知恵』を望むとは。いいでしょう、あなたに黄金の法則を一つだけ授けます。

『収入の1割を、決して使わずに残しなさい』。
そして残りの9割で生活をやりくりしなさい。たったそれだけです。
そう言うと、ソフィアはリヒトの手に、一枚の古びた羊皮紙を握らせる。

もしそれを3ヶ月続けることができたなら……この紹介状の場所を訪ねるといいでしょう。

収入の1割……を3か月・・・ですか

おいおい正気か?そんなことしたって金はちっとも増えねぇし
むしろ使える金が減ったんじゃもっと貧乏になるだけだぜ!ばかばかしい!
ソフィアはギャンの方を向き、チャリン、と1万ゴールドを投げ渡す。

あなたはゴールドを望みましたね。さあ、どう使うか見物です。
そう言い残し、ソフィアは雑踏の中へ消えていった。

ラッキー!1万ゴールドだぜ!
おい!これだけあるんだ、今夜は「ハイ・ローラー」に突撃するぞ!

ギャン……俺、やってみるよ。

おお、そう来なくっちゃな!
お前にも1回だけ選ばしてやるぜルーレットの色をな!

いやそうじゃなくてさ。
さっきの、収入の1割をってやつをだよ。

はぁ!?リヒト、お前正気か?……あのなぁ、そんな簡単な方法で金持ちになれるなら誰も苦労しねぇんだよ。からかわれたんだよお前は。

そうかもしれないけどさ、あの人はきっと大金持ちだ。
そんな人がわざわざ俺なんかをからかうために適当なこと言うか?

いうんじゃねぇーの?知らねぇけどよ。

きっとこれには何か意味があると思うんだ……。
今はまだ分からないけど、でも、俺やってみるよ。

あっそ!せいぜい頑張んな!
俺は一足先に大金持ちになってくるぜ!じゃぁな!
シーン3:3ヶ月の試練
1ヶ月目
王都の高級酒場。ギャンがカジノで大勝し、テーブルにはご馳走が並んでいる。

ガハハ! 遠慮するなリヒト、今日は俺のおごりだ!
見たか、これが賢い稼ぎ方だぜ!

ご馳走様、ギャン。お前は本当に気前がいいな。

(でも、このお金はすぐになくなっちまう気がする……)
その夜、リヒトはもらった給料からキッチリ1割を、小さな皮袋に取り分けた。
2ヶ月目
リヒトはボロボロの剣のまま、さらに切り詰めた生活(自炊や水筒の持参)をして、確実に1割を袋に納める。
一方のギャン。カジノで運が尽き始め、身なりが少しずつ荒んでくる。「次は絶対勝てるんだ、ちょっと金貸してくれ!」と騒いでいるが、リヒトは首を縦に振らない。
3ヶ月目
給料日。激しい雨の日。様々な誘惑やピンチを乗り越え、リヒトはついに3ヶ月連続で「1割の貯蓄」を達成する。
皮袋の中身は、決して大金ではない。重さも大したことはない。だが、自分の意志で「やり切った」という達成感で、リヒトの顔つきは以前よりずっと精悍になっていた。
その隣で、完全に無一文になったギャンがお腹を鳴らしている。
シーン4:運命の扉、ギルド「キャピタル」へ
王都の一等地。重厚な石造りの建物『冒険者ギルド・キャピタル』の前に立つリヒトとギャン。

はらへった……なあリヒト、お前、この3ヶ月で金貯めただろ?
それでパンでも買ってくれよ……

ごめんな、ギャン。このお金だけは、俺が俺との約束を守って貯めた、大切な『始まりの資金』なんだ。絶対に手はつけられない。

冷たいヤツだなー……じゃあ俺、向こうで炊き出しに並んでくるわ……
トボトボと歩き出すギャンの背中に、リヒトが声をかける。

ギャン!……このギルドでの用事が終わったら、温かいスープをおごってやるよ。酒場の時のお返しだ。だから、ちょっと待っててくれ。
ギャンはパァッと明るい顔になり、「おう!絶対だぞ!」と手を振った。
リヒトは微笑み返し、そして決意の表情で、ギルドの重い木の扉をギィィ……と押し開ける。
ギルド内部
清潔で落ち着いた空間。暖炉の火がパチパチと鳴っている。
受付カウンターの中にいる女性が、顔を上げてにっこりと微笑んだ。

いらっしゃいませ。冒険者ギルド『キャピタル』へようこそ!

(ハッとして目を丸くする)……えっ!? あ、あなたは、あの時の……
リヒトの目の前にいる受付嬢(エレナ)は、3ヶ月前に街で助けたあの気高いお嬢様に、どこか面影が似ていた。
しかし、着ているのは親しみやすいギルドの制服だし、声のトーンも明るく庶民的だ。

(いや……気のせいか。あの時の奥様とは、雰囲気が全然違う。他人の空似だな)

お客様? どうかされましたか?

あ、いえ! すみません、人違いでした。
……俺、この紹介状を持って、ここへ来いと言われて。
リヒトがカウンターに古びた羊皮紙を置く。
エレナはそれを手に取り、ふふっ、と嬉しそうに微笑んだ。

なるほど、ソフィア様からのご紹介ですね。
……おめでとうございます。見事に3ヶ月の試練をやり遂げたのですね。
リヒトはコクリと頷き、大切に抱えていた小さな皮袋をカウンターに置く。

それで、どうでしたか?ソフィア様からの試練をやり遂げた感想は。

……はい。金額にしたら、大したことない少額です。
でも、俺は初めて『自分の意志』でお金を残すことができました。

……。

(ここでもっともらしいことを言う)

ええ、袋の重さは関係ありません。ご自身の欲に打ち勝ち、最初の資産(タネ銭)を築き上げたその『事実』こそが、リヒト様の最大の武器となるのです。……さあ、ここからが本当の『資産形成クエスト』の始まりですよ!
エレナの言葉に、リヒトの顔に力強い笑顔が浮かぶ。

はい! 俺に、本当の戦い方を教えてください!
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